心電図でわかる心筋梗塞とは?|ST上昇やミラーイメージなど波形のポイントを徹底解説!
心筋梗塞とは冠動脈の動脈硬化が進み、心筋に血液が流れなくなり心筋細胞が壊死した状態です。突然死に至るリスクもあるので迅速な対応が必要になります。
このサイトでは心電図が苦手な人にもわかりやすく心筋梗塞の波形の読み方の解説、見つけた時の対応などを解説していきます。
心筋梗塞とは?
心筋梗塞は冠動脈の動脈硬化が進行し血栓によって冠動脈の内側が閉塞し、閉塞部位より先の心筋に血液が流れなくなり心筋が壊死した状態です。壊死によりダメージを受けた心筋は不可逆的障害が生じ、回復することはありません。ダメージを受けた部位が広範囲にわたると突然死に至る場合もあります。
そのため血管が閉塞してから心筋が完全に壊死してしまうまでに、できるだけ早く治療を開始することが重要です。
ただし、心臓には側副血行路という別ルートを使って、心臓に血液を送るメカニズムがあるため、血管が閉塞してから心筋梗塞に至るまでの所要時間には個人差があります。
また心筋梗塞になると心臓のポンプ機能が低下します。その結果心不全やショック状態に陥ったり、危険な不整脈が出現するリスクがあります。一般的に不整脈は24時間以内に発症しやすいと言われています。心筋が障害された部位によりますが、心室期外収縮(PVC)、房室ブロック(AVB)などを合併しやすく、心房細動(AF)などの致死的不整脈に移行するリスクも高くなります。
心筋梗塞による突然死の多くは発症後の不整脈によるものなので、モニター心電図の観察を行い、不整脈の早期発見することが重要なポイントです。
心臓などの血行路に閉塞が生じた場合、枝分かれや側枝により形成された迂回路によって、組織への血流を確保します。
発症~48時間 急性心筋梗塞(acute) → AMI
~1カ月 亜急性心筋梗塞(recent)
1カ月以上 陳旧性心筋梗塞(old) → OMI
心筋梗塞の波形のポイント

発症直後 : T波のみが増高
数分~数時間 : 続いてST部分が上昇
数時間~24時間以内 : 異常Q波の出現
2日~1週間 : STが基線に戻り、冠性T波が出現
数カ月~1年 : 冠性T波は陽性に戻る場合があるが、異常Q波は残る
①ST上昇
心筋梗塞の心電図波形の特徴はST部分が基線より上がってみえるST上昇です。ST上昇は心筋に血液を供給している血管の閉塞による高度の障害の存在を表しています。特に発生直後の急性期の心電図では、T波の増高→ST上昇という特徴的な波形変化がみられます。
②異常Q波
心筋梗塞を発症してから1日くらいたつと異常Q波が出現します。異常Q波は心筋壊死の存在を表しています。
異常Q波は心筋の壊死を意味するため、通常回復することはありません。異常Q波の有無が心臓カテーテル検査を実施するか、実施しないかの分かれ道になります。
③冠性T波(陰性T波)
亜急性期(24時間~1週間)にはSTが基線に戻り冠性T波(陰性T波)が出現します。冠性T波(陰性T波)は心筋虚血の存在を表しています。閉塞していた冠動脈が再開通すると早期に冠性T波(陰性T波)が出現することがあります。
冠性T波(陰性T波)とは心筋梗塞に認められる左右対称の陰性T波を指します。
急性心筋梗塞(AMI)の症状
- 胸痛、胸苦
- 消化器症状
- 左肩の痛み、あごの痛み(放散痛)
- 呼吸苦など
急性心筋梗塞(AMI)を見つけた時の対応
ST変化をみつけたらすぐに患者のものに駆けつけて、胸痛などの有無を確認し12誘導心電図を実施します。そして、ただちに主治医へ報告が必要です。
致死的不整脈へ移行するリスクが高く、不整脈が出現した際は電気的除細動や胸骨圧迫を開始できるように準備が必要です。心臓カテーテル検査適用時期であれば検査に送りだす準備も併用して行います。
心筋梗塞では採血データーで心筋逸脱酵素の上昇(トロポニンT陽性、CPK上昇)、白血球増加などの血液検査異常が出現します。
波形変化に乏しい場合は採血データーも踏まえてアセスメントし、時間をおいて再度12誘導心電図を実施を検討しましょう。
なぜ12誘導心電図を実施する必要があるのか?
①梗塞部位の診断
心筋梗塞は12誘導心電図を実施することで梗塞部位の診断を行うことができます。下の表のようにST上昇や異常Q波の出現する誘導から梗塞部位を推定することができます。

梗塞部位と誘導の関係性を全て覚えるのが大変だという人は次の組み合わせだけは必要最低限覚えておきましょう。
前壁中隔…V1、V2、V3、V4
側壁…Ⅰ、aVL、V5、V6
下壁…Ⅱ、Ⅲ、aVF
②無痛性心筋梗塞の発見
特に強い症状がない心筋梗塞を無痛性心筋梗塞といいます。割合は心筋梗塞患者の2~3割を占めているといわれています。
痛みがないから軽症と判断するのではなく、無痛性心筋梗塞の患者の多くは糖尿病や高齢者で、痛み刺激を脳に伝達する神経の障害により胸痛が感じられなくなっている場合がほとんどです。
そのため心筋梗塞が発見された段階ですでに重度の不整脈や心不全になっていることも少なくはありません。
急性心筋梗塞(AMI)の治療
急性心筋梗塞(AMI)の初期治療において大切なのは安静と疼痛緩和です。安静と疼痛緩和を行い症状の悪化予防に努めます。同時に心臓カテーテル検査や血栓溶解法の準備を整え治療を進めていきます。
下記は急性心筋梗塞(AMI)を発見してから再灌流療法の実施までの流れの一例です。
- 主治医に報告し、看護師を集める
- 心電図モニターの装着
→波形変化、致死的不整脈の出現の早期発見に努める。 - 酸素投与の開始
→低酸素血症は不整脈を誘発したり、心筋虚血を増悪させます。 - 血管確保
- ニトロ化合物の投与
→血圧が低下していなければニトロ化合物を舌下投与します。
※口腔粘膜から直ちに吸収され1~5分で効果出現と早い - アスピリンの投与
アスピリンを咀嚼内服(かみ砕いて内服)します。 - ヘパリンの投与
→早期に使用することで血管の再疎通が得られることもある - 再灌流療法の実施
→心臓カテーテル検査や血栓溶解法の実施
Ⅱ、Ⅲ、aVFで波形変化がみられた場合の対応(右側誘導)

Ⅱ、Ⅲ、aVFで波形変化がみられた場合は下壁の梗塞に加え、右冠動脈での閉塞も疑います。右冠動脈が閉塞すると右室梗塞を合併するリスクがあります。右室閉塞の有無を確かめるために右側誘導の実施が必要です。
もし右側誘導で右室梗塞が認められる場合はV3R、V4R、V5RでST上昇が認められます。
また右室梗塞を疑う所見として次の2つがあります。
- ST低下がV2のみ。V1はSTの上昇もしくは平坦化がみられる
- Ⅲ誘導のST上昇がⅡ誘導より大きい場合
稀に大動脈解離でもⅡ、Ⅲ、aVFの波形変化を認める場合があります。大動脈解離の場合は右側誘導で記録をしても波形変化は認められません。
右側誘導とは?
12誘導心電図は心臓を12通りの方向から観察することで、心臓に関する多くの情報を得ることができます。しかし、12通りの方向からは観察できない部分が存在します。その代表的な部分が心臓の右心室側と背側(後壁)です。
12誘導心電図は左胸に電極を貼るため左室の観察は行うことができますが、反対の右胸や背部には電極は貼っていません。
つまり、右胸からみた右室の観察や背部からみた心臓の後壁の観察はできていません。
そこで右胸に電極を貼って右室を観察するのが右側誘導です。ちなみに背中に電極を貼って後壁を観察するのが背部誘導となります。

右側誘導の電極の張り方
V1、V2は普段の誘導と変わらずそのままで、V3以降の誘導を胸骨中央を境にしてV3~V6と対称になる位置に電極を貼っていきます。
ちなみに対称の位置(右胸)に貼ったV3以降の誘導をRight(右)の頭文字をつけてV3R、V4R、V5R、V6Rといいます。
右側誘導の波形だとわかるように12誘導心電図の記録用紙に手書きでV3~V6の右側に「R」を付け加えておきましょう。

V1~V3でST低下が認められた場合の対応(背部誘導)

V1~V3でST低下が認められた場合は後壁梗塞を疑います。V1~V3でST低下が認められているのは後壁梗塞のミラーイメージの可能性があります。
実際に後壁梗塞の見逃しは約60%だと言われています。後壁梗塞を見逃さないために、V1~V3でST低下を認めたら背部誘導を実施しましょう。
心筋梗塞の場合、ST上昇している反対側の誘導でST低下を伴います。
イメージとして心臓の中心部に鏡があります。そのため心臓の前方でST上昇していると、中心部に鏡があるため光の屈折の関係で心臓の後方はST低下しているように見えます。

背部誘導の電極の張り方
背部誘導はV1~V3 or V4~V6の電極を取ってV4~V6と同じ高さでV7~V9に電極を貼ります。このサイトではより正確にV4~V6の高さで背部誘導を実施するためV1~V3を外してV7~V9に付け替える方をオススメします。
V7 | V4と同じ高さで後腋窩線との交点 |
V8 | V4と同じ高さで左肩甲骨中線との交点 |
V9 | V4と同じ高さで脊椎左縁との交点 |

心内膜下梗塞(非Q波心筋梗塞)とは?
心室の内膜側のみ梗塞を起こすとST低下と陰性T波を示しますが異常Q波を認められません。この状態を心内膜下梗塞(非Q波心筋梗塞)といいます。

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