心筋梗塞における心電図の特徴
心筋梗塞とは冠動脈の動脈硬化が進み、心筋に血液が流れなくなり心筋細胞が壊死した状態です。突然死に至るリスクもあるので迅速な対応が必要になります。
このサイトでは心電図が苦手な人にもわかりやすく心筋梗塞の波形の読み方の解説、見つけた時の対応などを解説していきます。
心筋梗塞とは?
心筋梗塞は冠動脈の動脈硬化が進行し血栓によって冠動脈の内側が閉塞し、閉塞部位より先の心筋に血液が流れなくなり心筋が壊死した状態です。壊死によりダメージを受けた心筋は不可逆的障害が生じ、回復することはありません。ダメージを受けた部位が広範囲にわたると突然死に至る場合もあります。
そのため血管が閉塞してから心筋が完全に壊死してしまうまでに、できるだけ早く治療を開始することが重要です。
ただし、心臓には側副血行路という別ルートを使って、心臓に血液を送るメカニズムがあるため、血管が閉塞してから心筋梗塞に至るまでの所要時間には個人差があります。
また心筋梗塞になると心臓のポンプ機能が低下します。その結果心不全やショック状態に陥ったり、危険な不整脈が出現するリスクがあります。一般的に不整脈は24時間以内に発症しやすいと言われています。心筋が障害された部位によりますが、心室期外収縮(PVC)、房室ブロック(AVB)などを合併しやすく、心房細動(AF)などの致死的不整脈に移行するリスクも高くなります。
心筋梗塞による突然死の多くは発症後の不整脈によるものなので、モニター心電図の観察を行い、不整脈の早期発見することが重要なポイントです。
心筋梗塞の波形のポイント
心筋梗塞の心電図波形は時間の経過とともに波形が変化していくのが特徴です。
発症直後 : T波のみが増高
数分~数時間 : 続いてST部分が上昇
数時間~24時間以内 : 異常Q波の出現
2日~1週間 : STが基線に戻り、冠性T波が出現
数カ月~1年 : 冠性T波は陽性に戻る場合があるが、異常Q波は残る
①ST上昇
心筋梗塞の心電図波形の特徴はST部分が基線より上がってみえるST上昇です。ST上昇は心筋に血液を供給している血管の閉塞による高度の障害の存在を表しています。特に発生直後の急性期の心電図では、T波の増高→ST上昇という特徴的な波形変化がみられます。
②異常Q波
心筋梗塞を発症してから1日くらいたつと異常Q波が出現します。異常Q波は心筋壊死の存在を表しています。
異常Q波は心筋の壊死を意味するため、通常回復することはありません。異常Q波の有無が心臓カテーテル検査を実施するか、実施しないかの分かれ道になります。
③冠性T波(陰性T波)
亜急性期(24時間~1週間)にはSTが基線に戻り冠性T波(陰性T波)が出現します。冠性T波(陰性T波)は心筋虚血の存在を表しています。閉塞していた冠動脈が再開通すると早期に冠性T波(陰性T波)が出現することがあります。
冠性T波(陰性T波)とは心筋梗塞に認められる左右対称の陰性T波を指します。
急性心筋梗塞(AMI)の症状
- 胸痛、胸苦
- 消化器症状
- 左肩の痛み、あごの痛み(放散痛)
- 呼吸苦など
急性心筋梗塞(AMI)を見つけた時の対応
ST変化をみつけたらすぐに患者のものに駆けつけて、胸痛などの有無を確認し12誘導心電図を実施します。そして、ただちに主治医へ報告が必要です。
致死的不整脈へ移行するリスクが高く、不整脈が出現した際は電気的除細動や胸骨圧迫を開始できるように準備が必要です。心臓カテーテル検査適用時期であれば検査に送りだす準備も併用して行います。
急性心筋梗塞(AMI)の治療
急性心筋梗塞(AMI)の初期治療において大切なのは安静と疼痛緩和です。安静と疼痛緩和を行い症状の悪化予防に努めます。同時に心臓カテーテル検査や血栓溶解法の準備を整え治療を進めていきます。
下記は急性心筋梗塞(AMI)を発見してから再灌流療法の実施までの流れの一例です。
- 主治医に報告し、看護師を集める
- 心電図モニターの装着
→波形変化、致死的不整脈の出現の早期発見に努める。 - 酸素投与の開始
→低酸素血症は不整脈を誘発したり、心筋虚血を増悪させます。 - 血管確保
- ニトロ化合物の投与
→血圧が低下していなければニトロ化合物を舌下投与します。
※口腔粘膜から直ちに吸収され1~5分で効果出現と早い - アスピリンの投与
アスピリンを咀嚼内服(かみ砕いて内服)します。 - ヘパリンの投与
→早期に使用することで血管の再疎通が得られることもある - 再灌流療法の実施
→心臓カテーテル検査や血栓溶解法の実施
なぜ心筋梗塞を疑ったら12誘導心電図を実施するのか?
普段病棟でよくみられる心拍監視モニターは3点誘導と呼ばれる誘導方法ですが、心筋梗塞は12誘導と呼ばれる誘導方法で検査する必要があります。
12誘導心電図を実施することで12つの方向から心臓を観察することができ、心電図波形の変化から梗塞部位の診断を行うことができます。
1、梗塞部位の診断ができる
心筋梗塞では下の表のようにST上昇や異常Q波の出現する誘導の組み合わせから梗塞部位を推定することができます。
2、無痛性心筋梗塞が発見できる
特に強い症状がない心筋梗塞を無痛性心筋梗塞といいます。割合は心筋梗塞患者の2~3割を占めているといわれています。
痛みがないから軽症と判断するのではなく、無痛性心筋梗塞の患者の多くは糖尿病や高齢者で、痛み刺激を脳に伝達する神経の障害により胸痛が感じられなくなっている場合がほとんどです。
そのため心筋梗塞が発見された段階ですでに重度の不整脈や心不全になっていることも少なくはありません。
Ⅱ、Ⅲ、aVFで波形変化がみられた場合の対応(右側誘導が必要)
Ⅱ、Ⅲ、aVFで波形変化がみられた場合は下壁の梗塞に加え、右冠動脈での閉塞も疑います。右冠動脈が閉塞すると右室梗塞を合併するリスクがあるため、右室閉塞の有無を確かめるために右側誘導の実施が必要です。
また心筋梗塞以外で大動脈解離でもⅡ、Ⅲ、aVFの波形変化を認める場合があります。大動脈解離の場合は右側誘導で記録をしても波形変化は認められません。
V1~V3でST低下が認められた場合の対応(背部誘導が必要)
V1~V3でST低下が認められた場合は後壁梗塞を疑います。V1~V3でST低下が認められているのは後壁梗塞のミラーイメージの可能性があります。
実際に後壁梗塞の見逃しは約60%だと言われています。後壁梗塞を見逃さないために、V1~V3でST低下を認めたら背部誘導を実施しましょう。
心内膜下梗塞(非Q波心筋梗塞)とは?
心室の内膜側のみ梗塞を起こすとST低下と陰性T波を示しますが異常Q波を認められません。この状態を心内膜下梗塞(非Q波心筋梗塞)といいます。
参考文献
1)日本不整脈心電学会,「実力心電図‐「読める」のその先へ‐」,日本不整脈心電学会.2018年2月8日
2)吉野秀郎/「ゼロからわかるモニター心電図」/成美堂出版/2015年7月20日
3)J-STAGE,安斉俊久、小川聡,「急性心筋梗塞の心電図診断とpit-fall」,ja (jst.go.jp)
参考webサイト
1)Welcome to 佐野内科ハートクリニック,「急性心筋梗塞」,急性心筋梗塞 – Welcome to 佐野内科ハートクリニック (heart-clinic.jp)
2)花子のまとめノート,「心電図-12誘導心電図の見方」,心電図ー12誘導心電図の見方|見てわかる!看護技術 (hanakonote.com)
3)朝活研修医 小児科総合診療,「時間がない急性心筋梗塞の対処(初期評価、検査、診断、治療)」,時間がない急性心筋梗塞の対処(初期評価、検査、診断、治療) – 朝活研修医 小児科•総合診療 (hatenadiary.jp)
4)川内内科診療所,「循環器系」,本には載っていないACSの心電図診断 小菅雅美先生 | 川村内科診療所様 (kawamuranaika.jp)
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