房室ブロックの分類と心電図の特徴
房室ブロックとは何らかの刺激伝導系の障害によって、心房から心室への伝導がブロック(遮断)される不整脈です。ブロックの状態により、いくつかのタイプに分類され危険度も変わってきます。
このサイトでは心電図が苦手な人にもわかりやすい波形の読み方の解説、房室ブロックを見つけた時の対応、治療方法などについて解説していきます。
房室ブロック(AVブロック)とは?
房室ブロック(Atrioventricular block : AVB)とは刺激伝導系の障害のため心房から心室に電気刺激がうまく伝わらなくなる状態です。
障害の重症度により、Ⅰ度房室ブロック、Ⅱ度房室ブロック、Ⅲ度房室ブロックに分けられます。さらにⅡ度房室ブロックではウェンケバッハ型、モビッツ型、高度房室ブロックに分けられます。
房室ブロック(AVブロック)の原因
心筋梗塞、狭心症、心筋炎など心疾患が原因であることが多いです。他にも薬剤など、さまざまな原因が考えられます。また高齢者の場合は心疾患がなくても老化現象(刺激伝導系に形成された線維化組織)により房室ブロックを起こしやすくなるといわれています。
その他には房室結節は自立神経系の影響を受けやすいので、夜間にウェンケバッハ型が出現するなど、生理的な原因で軽度の房室ブロックが出現することもあります。
Ⅰ度房室ブロックとは?
Ⅰ度房室結節は心房から心室への伝導が遅延する状態です。心電図ではP波、QRS波は欠けることなく規則的ですが、PQ時間が0.20秒以上と延長している状態。トレーニングを積んだスポーツ選手や、10代の若者など迷走神経が活発な人によくみられます。
Ⅰ度房室ブロックの波形のポイント
- P波、QRS波は規則的にあらわれる
- PQ時間の延長がみられる(≧0.20秒)
症状
自覚症状を伴わない場合がほとんどです。
見つけた時の対応
自覚症状がなければ特に必要ありません。
治療
特に治療をする必要はありません。
ただし、迷走神経の過緊張によって起こる場合や、心疾患や薬剤の影響で起こる場合は原因除去のための治療が必要になります。
Ⅱ度房室ブロック ウェンケバッハ型とは?
Ⅱ度房室ブロックとは心房から心室への伝導が断続的に切れる状態です。
ウェンケバッハ型(Wenckebach型)はPQ時間が徐々に延長したのち、QRS波が欠落するのが特徴です。その後の心拍では正常のPQ時間に戻りますが、再び徐々にPQ時間が延長しQRS波が欠落するという一連の流れを繰り返します。
Ⅱ度房室ブロック ウェンケバッハ型の波形のポイント
- PQ時間が徐々に延長する
- その後QRS波が欠落する
- 欠落した次の拍動でPQ時間は正常に戻る
症状
自覚症状がない場合が多いです。
自覚症状がある場合はめまい、胸部の不快感、動悸、息切れ、疲労感、倦怠感などが一般的です。
見つけた時の対応
数拍に1回規則的なQRS波の欠落はありますが、その他の心拍は安定しています。自覚症状がなければ緊急で対応する必要ありません。
治療
比較的安全な不整脈のため、強い症状がなければ治療の必要はありません。
Ⅱ度房室ブロック モビッツ型とは?
モビッツ型もウェンケバッハ型と同じくⅡ度房室ブロックなので、心房から心室への伝導が断続的に切れる状態です。
ただし、PQ時間が徐々に延長するウェンケバッハ型とはことなり、PQ時間は規則的ですが突然QRS波が欠落するのが特徴です。
心疾患(心筋炎、心筋梗塞など)を合併していることが多く、高度の徐脈や心停止に変化することがあるため同じⅡ度房室ブロックでもウェンケバッハ型より危険な不整脈です。
Ⅱ度房室ブロック モビッツ型の波形のポイント
- PQ時間は正常で変化はなし
- 突然QRS波が欠落する
症状
無症状のこともあればふらつき、失神などの症状が出現します。
また浮腫、呼吸困難などの心不全と同様の症状があらわれることもあります。
見つけた時の対応
高度の徐脈や心停止に変化するリスクがあるため、モニター装着し速やかに主治医へ報告が必要になります。
治療
自覚症状が強く緊急性が高い場合は一時的に体外式ペースメーカーが必要になります。自覚症状がある場合は植え込み型ペースメーカーの適応になる場合もあります。
高度房室ブロックとは?
高度房室ブロックとはP波のあとのQRS波の欠落が2個以上連続して認められる場合をいいます。
高度房室ブロックの波形のポイント
- P波とQRS波の割合が3:1以上になる
症状
心拍数の減少により全身血流を維持できないためモビッツ型と同じく、浮腫や呼吸困難など心不全同様の症状があらわれます。
またⅢ度房室ブロックに移行する可能性もあり失神や心停止に至る可能性もある危険な不整脈です。
見つけた時の対応
高度の徐脈や心停止に変化するリスクがあるため、モニター装着し速やかに主治医へ報告が必要になります。
治療
高度房室ブロックの場合は自動能による補充収縮が心室起源になる可能性が高いため、全身血流を維持するには心拍数が低すぎて不十分となることから、植え込み型ペースメーカーの適応になります。
Ⅲ度房室ブロック(完全房室ブロック)とは?
Ⅲ度房室ブロックとは心房から心室に刺激伝導が完全に遮断された状態です。伝導が完全に遮断するため完全房室ブロックともいいます。
特徴として心室と心房は完全に遮断されているため、それぞれが無関係に収縮している状態なので、P波とQRS波がそれぞれ独自にリズムを刻み、PQ時間が不規則になります。
Ⅲ度房室ブロックの波形のポイント
- P波とQRS波が無関係に発生
- PP間隔≠RR間隔
- PP間隔は一定
- RR間隔は一定
症状
Ⅲ度房室ブロックは心拍数によって症状がさまざまです。
心拍数が40回/分以上の場合は急激な症状はなく、めまい、起立性低血圧、息切れなどの症状があらわれます。
急性心筋梗塞などが背景にあったり、心拍数が40回/以下の場合は心不全様の症状や失神、アダムス・ストークス発作、起こす危険性が高く、また心停止に移行する危険性がある不整脈です。
見つけた時の対応
モニターを速やかに装着し主治医に報告します。
突然Ⅲ度房室ブロックが起きた場合はバイタルサイン測定を実施し、12誘導心電図を実施します。
治療
原因を探索し除去する必要があります。その間は一時的に体外式ペースメーカーを使用します。不整脈が一時的でないものは基本的に植え込み型ペースメーカーの適応になるます。
発作性房室ブロックとは?
正常洞調律から突然QRS波が連続して脱落する房室ブロックを発作性房室ブロックと言います。
慢性化した完全房室ブロックよりも臨床症状は強い場合が多く、失神や痙攣発作などを起こします。治療は植え込み型ペースメーカーの適応となります。
波形のポイント
- 正常洞調律から突然QRS波が連続して消失する
完全房室ブロックと房室解離の違いは?
完全房室ブロックは洞房結節からの刺激伝達障害により心房の興奮が心室に伝わっていないことで心房と心室が独自に収縮している不整脈です。
似たような不整脈として房室解離があげられ、房室解離でも房室と心室が独自に収縮しています。
しかし房室解離は房室と心室が完全にブロックされているわけではなく「洞結節からの刺激が少ない」もしくは、「房室接合部からの刺激が多い」ことで問題が生じます。
つまり、洞結節からの刺激が少ないことで心室が待ちきれずに自分で収縮を始める。
もしくは房室接合部からの刺激が多いことにより洞結節より多く収縮しているという問題が生じています。
房室解離の波形の判別ポイント
- P波とQRS波が連動していない
- PP間隔、RR間隔はそれぞれが一定リズムで出現
- P波≦QRS波
(ちなみに…完全房室ブロックではP波≧QRS波)
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