ペーシング機能とモードの違いについてわかりやすく解説!
ペースメーカーは洞不全症候群や房室ブロックなど心拍停止のリスクが高い徐脈に対して、機械を使って人工的に心臓の興奮を促すものです。
このページではペースメーカーの種類や機能など基礎知識に関して解説していきます。
ペースメーカーとは?
ペースメーカーとは洞不全症候群や房室ブロックなど重症の徐脈性不整脈の治療などに利用されます。人工的に心臓を興奮させて徐脈性不整脈による洞律の異常を補正します。
緊急時などに一時的に利用される「体外式」と、胸部や腹部に植え込んで利用する「体内式」の2種類のタイプがあります。使い分けに関しては体外式はあくまで一時的なものなので、緊急時に利用し体内式を植え込むまでの間に利用します。
ペースメーカーの適応
徐脈に加え症状がある場合は原則ペースメーカー適応となります。ペースメーカー適応となる症状を下記に記します。
・脳虚血症状(めまい、失神)
・心拍出量低下症状(心不全症状)
ペースメーカー心電図の波形のポイント
ペースメーカーを利用している場合、スパイクと呼ばれる人工的な波形があらわれます。ペースメーカーを使用している患者を観察する際は、スパイクが出ているか、スパイクの後に心室や心房が正常に反応しているか観察していく必要があります。
ペースメーカーの機能
1、ペーシング pacing
ペースメーカーが電気刺激を出して心臓を刺激する機能です。閾値以下の電位ではペーシングできませんが、閾値を超えた強さで刺激をすればペーシングが可能になります。ただし、刺激する強さが強いほど電池の消費が速いというデメリットがあります。
2、センシング sensing
心臓の自発的興奮(自己心拍)をペースメーカーが感知する機能です。感度でどの程度の波高を感知するか設定します。
例:感度を3mvに設定すれば、3mv以上の電位を自己心拍として認識します。
3、抑制 inhibit(I)
設定している心拍数に合わせて自己心拍を感知したら、ペーシングを休む機能です。抑制の機能によりペーシングと自己心拍が混ざっても頻脈になることなく過ごすことができます。
例:心拍数60回/分でペーシングを設定している場合
心拍数の設定が60回/分の場合1秒間に1回心筋を刺激します。もし、1秒を待たずに自己心拍が出現した場合は抑制の機能が働き、次のペーシングは自己心拍から1秒後に実施します。極端な話をすれば自己心拍が設定している心拍数以上ある場合は、抑制の機能によりペーシングは実施されることはありません。
同期 trigger(T)
本来、心収縮は心房収縮と心室収縮はわずかに遅れがあり、それによりより効率のよいポンプ機能を発揮しています。
同期とはペーシングを行う際に心房収縮と心室収縮のタイミングをわずかに遅らせる機能です。この機能があることでより生理的で、より効率的にペーシングを行うことができます。
ペースメーカーの設定について
ペースメーカーの設定はアルファベット3文字で表現します。この3文字の組み合わせをモード(設定)といいます。
最初の文字はペーシングする部位を表現しています。英語の頭文字をとってA(心房)、V(心室)、D(両方)のいずれかが入ります。
2番目の文字はセンシングする部位を表現しています。英語の頭文字をとってA(心房)、V(心室)、D(両方)のいずれかが入ります
3番目の文字は感知した刺激に対する反応様式を表現しています。英語の頭文字をとってI(抑制)、T(同期)、D(両方)のいずれかが入ります。
ペースメーカーの各モードについて
ペースメーカーのモードで主に使われているのはVVI、VDD、DDDの3つになります。そのほかの機能が使われない理由としてAペーシングのモード(AAI、AAT)は心房でペーシングを行っても房室ブロックがある場合は心室まで電気刺激が伝わらないため使用される症例が少ないです。ペースメーカーを挿入するほどの徐脈性不整脈の場合、房室ブロックが合併している場合が多いです
次にペーシング部位とセンシング部位が同じで同期しているモード(AAT、VVT)はペーシング出力が絶対不応期と重なるため、結果的に自己収縮のみとなるため使用されません。
VVIについて
全ての徐脈性不整脈に使用可能で緊急時に使用されるモードです。ペーシングやセンシングを実施するためのリードも1本留置するだけですみます。
デメリットとして心房の働きは完全に無視しているため、同期が保たれていないため非生理的なモードとなります。
VVIモードの波形のポイント
- スパイクの後に幅広いQRS波が出現する
VDDについて
2文字目のセンシングが心房と心室の両方(D)を感知しており、3文字目の反応様式も両方(D)の設定です。心室、心房で興奮刺激がない場合はペーシングを実施し、心房、心室で興奮刺激が発生した場合は抑制します。またペーシングを行う際は心房波を感知して同期することで、わずかにタイミングを遅らせて心室をペーシングすることができます。そのため同期が保たれており、生理的なモードです。
DDDについて
DDDモードは心房と心室でペーシングが可能かつ、心房と心室でセンシングが可能、抑制と同期いずれも可能なモードです。慢性徐脈性心房細動を除くすべての徐脈性不整脈に使用可能です。
心房のペーシング、センシングが可能なため心房機能が温存されます。また同期が保たれているため生理的な心臓の収縮が可能なため、植え込み式ペースメーカーなど長年使用する際に設定するモードとして多く使用されています。
デメリットはリードを2本挿入しなければいけないことです。リードが2本になることで手術時間の延長や血流障害が生じやすくなります。
DDDモードの波形のポイント
- スパイクのあとにP波またはQRS波が出現する
- 心室ペーシングされた場合には幅の広いQRS波が出現する
心房機能の重要性について
緊急時は体外式ペースメーカー VVIモードで使用しながら治療を行い、長期間ペースメーカーの使用が必要な場合はペースメーカー植え込み術を実施します。体内式ペースメーカーにしてからはDDDモードを使用している場合が多いです。
この違いは心房機能の有無にあります。心収縮機能消失により心拍出量が20%低下するといわれています。そのため緊急時はVペーシングだけできていればいいですが、長期間ペースメーカーを使用する場合は心房機能を温存できるDDDモードが選択されます。
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